ゴールドケア事例
Cases
「ありがとの、ありがとの」―その人らしさに、最後まで寄り添って
- 掲載日:2026.07.27
- 更新日:2026.07.07
今回は、一人の入居者さまに寄り添い、気持ちや状態を理解しながら、チームで支えるケアを重ねた事例をご紹介します。
故郷を離れ、不安な気持ちを抱えていたS様。認知症ケアの学びを活かした関わりと、医師・ご家族との連携により、少しずつ心と体の力を取り戻していきました。
この経験は、私たち職員に「一人ひとりに寄り添うチームケア」の意味を改めて教えてくれました。
「家に帰りたい」という訴え
「帰りたい。」「ここにはいたくない。」
入居して間もない頃のS様(92歳)が、繰り返し口にされていた言葉です。
認知症があり、慢性心不全などの持病もお持ちだったS様。家庭の事情により、故郷である福井を離れ、愛知で暮らすことになりました。
S様にとって、「帰りたい」という気持ちは、とても自然な思いでした。慣れない環境の中で気持ちが落ち着かず、不安からスタッフに手が出てしまうこともあり、薬によるサポートが必要な日も続いていました。
体調の急変と、方針の転換
そんな中、S様はインフルエンザにかかり、一時は酸素吸入や点滴を要するほど体調が悪化しました。その後、体調は回復したものの、以前より多くの場面で介助が必要な状態となりました。
私たちは、改めて考えました。
「S様のために、今、何ができるのか。」
もう一度、S様の笑顔を見たい。
S様らしさを取り戻してほしい。
その思いから、往診の医師に相談し、薬だけに頼るのではなく、日々の関わりやケアで支えていく方針へと切り替えました。
心に寄り添うケア
S様に「もう帰れない」と伝えるだけでは、その気持ちに寄り添うことはできません。そこで、故郷である福井の話題を通じて、懐かしい思い出を語っていただく時間を大切にしました。
認知症ケアの研修で学んだことを活かし、否定せず、まずは気持ちを受け止めること。そして、S様が安心できる関わりを重ねることを意識しました。その積み重ねにより、S様の心は少しずつ落ち着いていきました。
体の力を取り戻す
生活リズムを整え、ほかの入居者さまとの交流の機会を増やしながら、並行してリハビリ(機能訓練)にも取り組みました。最初は、上半身を中心に可動域を広げる運動から始め、少しずつ立ち上がるための訓練も行っていきました。
体調を崩された後、トイレではすべての動作にスタッフの介助が必要だったS様。無理のないようご本人のペースを大切にしながら訓練を続けたところ、開始から半月後には、ご自身の足で立てるようになりました。さらに、スタッフがそばで見守りながら、ご自身でトイレ動作ができるまでに回復されました。
最後まで、その人らしく過ごすために
その後、病気が再発し、S様は再びベッド上で過ごす時間が長くなりました。
一人よりも、みんなとリハビリをすることが大好きだったS様。医師、ケアマネジャー、福祉用具専門員、ご家族と連携し、移動できるベッドを取り入れ、いつも大好きな仲間やスタッフのそばで過ごせるよう環境を整えました。
日々変化していくS様の様子を見守りながら、できるだけ負担の少ない姿勢を保つなど、細やかな配慮を続けました。
私たちの宝物になった言葉
そんな日々の中で、S様が繰り返し口にされたのが、「ありがとの……ありがとの……」という言葉でした。
その後、S様は穏やかに永眠されました。しかしその言葉は、今も私たちの心の中に生き続けています。
今回のケアを通して、生活リズムを整えることが、身体の動きや暮らしの質の向上につながることを改めて実感しました。そして、認知症の方の気持ちに寄り添うこと。その人らしさを大切にしながら、チームで支え合うこと。S様は、私たちにその大切さを教えてくださいました。
素敵な日々をくださったS様に、心からの感謝を込めて。
「ありがとの。」