認知症の家族との上手な付き合い方|ポイントや症状別の対応・NG行為も
超高齢化社会に突入して久しい現代では、認知症となる方も増加しています。
令和4年の認知症と軽度認知症(MCI)の合計有病率は約28%となり、誰もが認知症になり得る未来が予測されています。
ご家族が認知症になった場合も介護負担は大きくなり、付き合い方に悩むケースは多いでしょう。
この記事では、認知症のご家族との上手な付き合い方を解説します。
コミュニケーションや症状別の付き合い方はもちろん、NGな行為についてもあわせて紹介するので、ぜひ参考にしてください。
認知症の家族との上手な付き合い方【コミュニケーション編】
認知症のご家族と上手に付き合うために、コミュニケーションで気をつけるポイントは、以下の3点です。
- 声
- 言葉
- 姿勢
それぞれ詳しく見ていきましょう。
ポイント①:声
声に関する注意点は、以下のとおりです。
- 適度に大きな声で話す
- 穏やかなトーンで話す
- ゆっくりと話す
ゆっくりと、やさしい穏やかな声で話すことが大切です。
大きすぎる声では驚いてしまい、早口だと聞き取れません。
年齢を重ねて聴力は低下するうえに、認知症では、考えるスピードも遅くなります。
また、自分の変化に不安を抱いて生活しているため、神経が過敏な状態にあります。
ご本人が安心できるような声を意識し、笑顔で接することでコミュニケーションを取りやすくなるでしょう。
ポイント②:言葉
言葉に関する注意点は、以下のとおりです。
- 理解しやすい言葉を使う
- 情報を小さく分けて、1つずつ提示する
- 指示を簡単にする
- 間違った言動でも無理に訂正せず、ご本人の言葉を否定しない
- 子ども扱いするような言葉遣いは避ける
ご本人が理解できる言葉や内容にかみ砕いて伝えることが、重要です。
認知症になると理解力や判断力が低下するため、返答するまでに時間を要します。
そのため、以下のように情報を分けて伝えることも大切です。
【例】
「着替えたら朝ご飯を食べて、歯を磨いてください」 →「着替えてください」 →「朝ご飯を食べます」 →「歯を磨きましょう」 |
言葉だけではなく、絵やジェスチャーなどの視覚的なアプローチも効果的です。
理解に時間を要するという認識を持ち、コミュニケーションの仕方を工夫することで、良好な関係を築く一助となるでしょう。
引用元:
ポイント③:姿勢
姿勢に関する注意点は、以下のとおりです。
- 話始める前に名前を呼ぶ
- 目線を合わせて話す
- 相づちを打つ
- 相手の表情に注目する
- 正面から話しかける
- 威圧的にならないようにする
- 大人数で囲まない
認知症の方とコミュニケーションを取る際は、「しっかり向き合いたい」という気持ちを示すことが大切です。
相手に合わせた姿勢が安心感を与え、信頼関係の構築につながります。
とくに、背中にやさしく触れるなどのスキンシップは、精神的な緊張を和らげてくれます。
互いに穏やかな気持ちでコミュニケーションを取れるよう、ご家族の自尊心を思いやる姿勢を心がけましょう。
認知症の家族との上手な付き合い方【心の持ち方編】
認知症のご家族と付き合う際に、心の持ち方として重要なポイントは以下の2点です。
- ありのままを認める
- ご本人のペースに合わせる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
ポイント①:ありのままを認める
認知症のご家族と上手に付き合うためには、ありのままを認めることが大切です。
ご本人が1番不安で、苦しい思いをしているためです。
認知症と診断されても、多くは「認知症じゃない」と主張して自衛反応を示します。
自分の変化を理解していても、受容し助けてもらうことには、抵抗があるものです。
このとき、ご家族も混乱し続けて現状を認められなければ、家族関係の悪化にもつながりかねません。
とくに、怒られるなどのマイナスな体験は不快な感情として残ります。
できないことを指摘するのではなく、ありのままを認めて、現状維持できるようにサポートすることが大切です。
褒められるなどの快感情を積み重ねれば、ご本人の不安も緩和され、認知症症状の安定につながるでしょう。
引用元:
ポイント②:ご本人のペースに合わせる
認知症のご家族と上手に付き合うためには、以下のような内容を心がけつつ、ご本人のペースに合わせることが必要です。
- ご本人が沈黙しても、せかさない
- 放置するのではなく、危険がないか観察し見守る
日常生活動作がスムーズにできなくなり、介護する側は、つい次の行動を急がせてしまいます。
しかし、焦りは精神状態を不安定にさせ、認知症の症状も悪化する可能性があります。
認知症の急激な悪化で介護負担を増加させないためにも、可能な限りご本人のペースを尊重するようにしましょう。
認知症の家族との上手な付き合い方【症状別編】
認知症には認知障害による中核症状のほかにも、以下をはじめとして多様な周辺症状があります。
- 介護拒否
- 徘徊
- 妄想
- その他
周辺症状は本人の性格や環境などの要因が作用して起こるため、対応には注意が必要です。
症状別の原因と対処法について、それぞれ詳しく見ていきましょう。
症状①:介護拒否
認知症のご家族に介護拒否がみられる原因と対処法は、下表のとおりです。
原因 | 対処法 |
・何をされるかわからない恐怖心 ・理解力・判断力の低下 ・倦怠感や便秘などの身体的不調 ・羞恥心や遠慮 ・環境や人に対する不適応 | 【食事や内服拒否の場合】 ・拒否理由を確認する ・食事や薬の内容を調整する ・食事・服薬してほしい理由を説明する ・直接薬に触れて確かめてもらい、安心感を与える 【入浴拒否の場合】 ・準備段階からご本人と一緒に行う ・入浴することの気持ちよさを伝える ・お湯に触れてもらう ・無理強いしない ・時間や人を変える 【その他】 ・介護が必要な理由を伝える ・無理強いしない ・時間や人を変える ・気持ちを他のことに向け、切り替えてから再度挑戦する |
介護拒否が起こる1番の理由は、恐怖心によるものです。
認知症になると思考力が低下し、情報処理も困難となるため、次に起こることの予測ができません。
そのため、拒否という形で自分を守ろうとします。
しかし、「入浴して気持ちよかった」など快感情が残る体験ができれば、介護拒否が減る可能性があります。
認知症状との付き合い方で悩む際は、ご本人が安心できる体制を整えて快感情を積み重ねていくことを意識しましょう。
引用元:国立長寿医療研究センター|認知症・せん妄サポートチームマニュアル
症状②:徘徊
認知症のご家族に徘徊がみられる原因と対処法は、下表のとおりです。
原因 | 対処法 |
・見当識障害※ ・記憶や方向感覚の障害 ・不快な環境からの逃避 ・疼痛などの身体的不調 | ・徘徊する目的や行き先を確認する ・寒い・うるさいなど不快な環境からの逃避であれば、改善する ・身体的不調の軽減を図る ・名前や連絡先を記載した名札をつける ・携帯にGPSを入れ、身につけてもらう ・近隣住民や警察の協力をあおぐ ・付き添える場合は、一緒に歩き、気持ちを他のことに向ける |
徘徊するからといって外出できなくすれば、ご本人は混乱し症状の悪化を招く恐れがあります。
そのため、原因をよく分析し、1つずつ対処することが大切です。
たとえば、昼夜逆転によって徘徊につながりやすい見当識障害は、以下のような対処法も有効です。
- ベッドまわりの環境を整える
- 日中は日光を浴びる
- ご本人が楽しめるような活動やレクリエーションに参加する など
徘徊後は、信じられないほど遠くで発見されることもあります。
自治体や警察による情報サイトもあるので、行方がわからなくなったときに備えて覚えておくとよいでしょう。
症状③:妄想
認知症のご家族に妄想がみられる原因と対処法は、下表のとおりです。
原因 | 対処法 |
・不安や恐怖による不安定な精神状態 ・痛みなどの身体的不調 ・理解・判断力の低下 ・視力・聴力の低下 | ・ご本人に寄り添い安心感を与える ・身体的不調の軽減を図る ・物がなくなったという訴えであれば、一緒に探す ・室内を整理する ・気持ちを他に向ける |
被害妄想は、より身近な介護者に対して強く出る傾向にあります。
一番信頼している存在であり、気持ちを伝えやすいためです。
しかし、疑われればご家族の心には傷が残ります。
介護が辛くなって心身ともに壊れてしまう前に、気持ちを吐き出すことが大切です。
悩みが相談できる窓口について知りたい方は、下記の記事も参考にしてください。
【関連記事】介護の悩み相談ができる窓口一覧|負担軽減が期待できるサービスも解説
症状④:その他
その他周辺症状や原因と対処法は、下表のとおりです。
症状 | 原因 | 対処法 | ||||
暴言・暴力 | ・自分の変化に対する恐怖心や不安感 ・記憶障害や理解力の低下 ・便秘などの身体的不調 | ・怒りの原因がわかる場合は、取り除く ・攻撃的なときは、おさまるまで見守る ・理解を示す ・「いつもありがとう」など肯定的な言葉を多用する ・ご本人の好きな話題を振るなど、他のことに注意を向ける ・好きな音楽をかけて安心できる環境をつくる ・自然に触れてもらう | ||||
幻視・幻聴 | ・淋しさや不安感の増幅 ・痛みなどの身体的不調 ・煩雑な環境による誤認識 ・理解・判断力の低下 ・視力・聴力の低下 | ・寄り添い安心感を与える ・身体的不調の軽減を図る ・室内を整理する ・幻視・幻聴の内容を否定しない ・どのような状況なのか、話を聞く ・虫が見えるなら、追い払う動作で、いないことを一緒に確認する | ||||
失禁 | ・問題解決能力の障害 ・トイレの場所がわからないなどの記憶障害や判断力の低下 ・下肢や膀胱括約筋など筋力の低下 | ・定期的にトイレ誘導する ・トイレと書いた紙を貼り、場所がわかるようにする ・トイレに行きたいサインを見逃さない ・着脱しやすい服装にする ・筋力低下予防のためにストレッチする |
認知症の周辺症状は性格や環境などが影響するため、人によって表れ方が異なります。
在宅では無理せずできることを実践し、場合によっては介護サービスに頼ることが大切です。
弊社ゴールドエイジでは、認知症の方も利用できる施設を運営しております。
お近くの施設をお探しの方は、施設一覧ページをチェックしましょう。
なお、認知症の方が入所をご希望される場合は、事前面談がございます。
症状によっては入所いただけないケースもございますので、あらかじめご了承くださいませ。
引用:認知症介護情報ネットワーク|興奮・暴力場面における認知症ケアの考え方
認知症の家族との付き合い方でNGな行為
認知症のご家族との付き合い方でNGな行為は、以下のとおりです。
- 無視・放置する
- 否定する
- しかる
- 命令する など
命令や否定は、恐怖や嫌悪などマイナスの感情を残してしまいます。
介護する側は、日々の生活が忙しく、スムーズに進まないことに苛立つケースも少なくありません。
しかし、対応方法によっては、認知症の症状悪化につながるため注意が必要です。
また、認知症の介護では、ご家族だからこそ期待・失望してしまう部分も多々あります。
認知症のご家族に笑顔で対応できなくなったときは、適度に距離を置くことも大切です。
認知症の方が入れる施設の費用や選択方法を知りたい方は、下記の記事もぜひ参考にしてください。
【関連記事】認知症向け介護施設一覧|入所にかかる費用や選び方のポイントも解説
まとめ:認知症がある家族の反応は付き合い方次第で変わる
認知症があるご家族の反応は、付き合い方次第で変わります。
しかし、症状はさまざまなので、介護する側が笑顔でいられないケースも多々あります。
自分らしい生活を維持するためには、施設入所も選択肢として検討することが賢明です。
なお、弊社ゴールドエイジでは、認知症の方も安心して過ごせるようサポートしております。
認知症でも入れる施設をお探しの方は、施設一覧ページをチェックしましょう。
※ゴールドエイジでは認知症の方のご入居につきまして、ご入居者様の個別の状態により判断させていただいております。
認知症の診断の有無にかかわらず、他のご入居社様との共同生活や、職員のサービス提供に支障がない場合は、ご入居いただけます。
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この記事の監修
間井 さゆり
役職 | 内部監査室長 |
保有資格 | 介護支援専門員(ケアマネージャー) |
2006年入社 ゴールドエイジの創業当初から介護事業運営に幅広く携わり、介護支援専門員、館長、内部監査員などを歴任し発展を支えてきた。
現在は内部監査室長としてゴールドエイジの介護事業運営の適正化、効率化を支えている。