ゴールドケア事例
Cases
「家におりたい」想いに寄り添い支え続けるケア
- 掲載日:2025.11.25
- 更新日:2025.12.22
今回は、「家(うち)におりたい」という強い願いを持っていた一人のご利用者様の最期の時を支えた、ゴールドエイジさつきでの「看護小規模多機能型居宅介護」の事例をご紹介します。
目次
N様と「家におりたい」という願い
N様(92歳)は心筋梗塞や大腸がん、前立腺がんなど複数のご病気を抱えています。奥様、息子様との3人暮らしで日中は高齢のご夫婦二人きりです。
自宅で転倒を繰り返し入院。退院後はご本人ご家族の強い希望もあり「看護小規模多機能型居宅介護」ができるゴールドエイジさつきで担当させていただくことになりました。
最初の壁―自宅環境とコロナ禍
N様のご自宅は高台にある一軒家でした。玄関前の階段は勾配20度以上。スロープはあるものの、それもまた急傾斜。車椅子での移動には職員2名が必要な環境です。
当初、私たちは「通い」サービスを中心にケアプランを立てていました。しかし、N様の退院直後、新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言が発令されました。
すべての「通い」サービスを中止せざるを得ない。
急遽、「訪問」サービスに切り替える計画変更を行いました。ご家族も当初のプランとの違いに戸惑いながらも渋々了承してくださいました。
住環境の整備―自宅で歩けるように
訪問サービスへの全面切り替えという状況の中、私たちはまずN様が自宅で自立した生活を送れるよう、住環境の整備に力を注ぎ、細やかな工夫を重ねていきます。
寝室の改善
奥様と二人で使われていた簡易ベッドは、立ち上がりには低すぎたため、厚みのあるマットレスを導入して高さを調整。さらに、ベッド横の押入れの襖を開けたままにして、掴まる場所を確保しました。
移動のサポート
室内の要所に手すりやスロープを設置。4点歩行器を導入し、訪問時にはトイレや居間への移動を積極的に促しました。
入浴環境の整備
自宅での入浴を可能にするため、サービス開始前に浴室の片付けや清掃を実施。安全な入浴手順を確立し、必要な福祉用具を配置しました。当初は浴槽から自力で立ち上がれないこともあり、その際は他の職員が急いで応援に駆けつけることもありました。
回復の兆し―通いサービスの再開
訪問を通じて、私たちはN様ご夫婦の生活に深く関わり、その時々の希望や不安に寄り添い、ケア開始からわずか1ヶ月後、N様は自力で室内を歩いてトイレに行けるまでに回復されました。
そして、待ちに待った「通い」サービスを開始することができました。「通い」サービスでは、ご自宅では見られなかったタオルたたみやカラオケにも積極的に取り組まれる姿がありました。
最大の試練―家庭内でのコロナ感染
ある日のこと、訪問したスタッフに、息子様が「喉に痛みがある」と相談されました。抗原検査を実施したところ、陽性。コロナウイルスに感染されていました。
その後N様ご本人、そして奥様も陽性が確認され、ご家庭全体がコロナに感染する事態となりました。
私たちは直ちに最高レベルの感染対策体制に移行しました。
徹底した感染対策
- 訪問の都度、玄関前で防護服を完全に着用
- サービス終了後、屋外に設置した専用のゴミ箱に防護服を廃棄
- 屋外水道で手洗いと消毒を厳格に実施
- 訪問スタッフを特定の担当者に限定
- ゴミ捨てなど、感染リスクが伴う日常的な生活援助も継続
一般家庭での感染対策は極めて困難でした。トイレや浴室といった共有スペースがあり、完全な隔離は不可能です。防護服に全身を包んだスタッフは、汗だくになりながら1時間以上に及ぶ身体介助を続けました。
こうした感染対策の甲斐もあり、約1ヶ月にわたる感染対応期間中、スタッフに一人の感染者も出すことなく、この危機を乗り越えることができました。
しかし、この感染症はN様の身体機能に深刻な影響を及ぼしました。下肢筋力が著しく低下し、再び自力での立ち上がりが困難に。据え置き型のポータブルトイレを再導入して対応しました。
ご家族の決断―「家で最期を迎えさせてあげたい」
コロナ感染から回復後、N様は発熱をきっかけに救急搬送され、入院されることになりました。
病院では食事がほとんど摂れず、体重は66kgから50kgへと激減。日に日に衰弱していくN様の姿に、ご家族は深く苦しんでおられました。面会もままならない中、ある日「さつき」に一本の電話が入りました。
「できたら、うちで最期を迎えさせてあげたい。うちへ帰れば、もしかしたら食べられるようになるかもしれない」
私たちも、ご家族の想いに応えたい。しかし、課題もありました。時期は年末に差し掛かり、人員が手薄になることが予想されます。
そこで、代替案として系列のホームへの入居も提案しましたが、ご家族は「家に居たい」というN様の想いを最優先されました。
在宅での看取りを実現するため、私たちはご家族と率直かつ詳細な話し合いを行いました。
- 訪問サービス時間外の食事介助、排泄介助、吸引などをご家族に行っていただく必要があること
- 延命を目的とした積極的な治療は行わず、苦痛緩和を中心とした在宅診療へ移行すること
- 容態が急変した場合でも、医師がすぐには訪問できない可能性があること
厳しい現実をご家族は真摯に受け止め、「家で看取る」という覚悟を固められました。
帰宅と最期の時間
ご家族の決意を受け、私たちはN様を迎え入れるための最終準備に取り掛かりました。2度目となる住環境の見直しを行い、新たに特殊寝台を導入、N様はついに愛する我が家へと帰られました。
自宅のベッドに横たわったN様は、かすかに手を合わせ、笑顔で「ありがとう、ありがとう」と感謝の言葉を口にされました。
息子様が「ここ、どこ?」と尋ねると、はっきりと「うち」と答えられました。息子様を指さし、その名前を呼ぶ場面も。その様子に、奥様は「『うち』ってことが分かったんやね。痩せたけど、うちに帰ってくることができてよかったね」と涙ぐんでおられました。
その後、スタッフが毎日訪問し介助を行い、最期の時をご自宅で迎えられました。
「家におりたい」という想いに寄り添い続けること
ご家族からは、「最期を自宅で迎えることができて、本人も幸せだったと思います」「病院であれば1週間でも多く延命できたかもしれませんが、『太く短く』最期を迎えられ、家族としても悔いはありません。本当にありがとうございました」と言葉をいただきました。
N様の事例は、ご本人とご家族に寄り添い、「家におりたい」という願いを実現できた、私たちにとって印象に残る看取りとなりました。
これからもご利用者様の気持ちに寄り添い笑顔溢れるゴールドエイジにしていきたいと思います。