ゴールドケア事例
Cases
「お父さんに会いに朝市へ」夫婦の絆と広がる楽しみと喜び
- 掲載日:2025.11.25
- 更新日:2025.12.22
今回ご紹介するのは、入居者のS様(91歳女性)が長年抱いていた「朝市に行きたい」という願いを実現した事例です。この取り組みを通じて、S様の心身機能に変化が現れただけでなく、ご家族や他の入居者様にも温かい影響の輪が広がりました。
目次
S様について
S様が入居されたのは、ゴールドエイジが開設された当初のことでした。骨粗鬆症、気管支拡張症、慢性心不全(ペースメーカー植込み)といった既往歴をお持ちで、入居時はひどいせん妄(意識障害)があり、ほとんどのことが理解できない状態でした。
しかし不思議なことに、野菜の名前だけはすらすらと言えたのです。
そして毎週金曜日には「明日は朝市。お父さん準備に忙しいわ」、土曜日には「今日は朝市かぁ。お父さん頑張っているかな」と呟くことが日課になっていました。
朝市への深い想い
S様にとって、朝市は単なる市場ではありませんでした。
約30年前、当時の大口町長からの依頼を受け、S様ご夫妻が試行錯誤の末に立ち上げた、特別な場所。ご主人が育てた野菜を並べ、地域の方々と触れ合う。その記憶は、S様の心に深く刻まれていました。
「ゴールド」というしかけ―リハビリが楽しみに
ゴールドエイジでは、「ゴールド」という館内通貨の仕組みを導入しています。日々のリハビリやレクリエーション、書道といった活動に参加すると「ゴールド」が貯まり、ジュースやお菓子と交換できたり、より大きな「夢を叶える」ために使うことができます。
このシステムによって、入居者の皆様の活動への参加意欲が大きく変わりました。「仕方なく」から「楽しんで」へ。
S様も日々の活動に熱心に参加し、多くの「ゴールド」を貯めていらっしゃいました。
きっかけは七夕の短冊
S様は、ご自身の夢を具体的に口にすることはありませんでした。
しかし、その想いに気づいたきっかけは「七夕の短冊」でした。S様が大切に車椅子につけていた短冊には、「朝市に行きたい」という願いが記されていたのです。
この気づきは、コロナ禍による外出制限がちょうど緩和され始めた時期と重なり、S様の夢の実現に向けて動き出す絶好の機会となりました。
「でも、迷惑がかかるから」―S様の心の壁
スタッフが「朝市に行きたいですか?」と尋ねると、S様は「行けるものなら行きたい。でも自分が行くと迷惑がかかるから」と答えられました。
この言葉から、朝市への訪問を実現するには、「迷惑がかかる」という心の壁を乗り越え、自信を取り戻していただく必要があるということがわかりました。
朝市に向けた3つの計画
S様が自信を持って朝市に参加できるよう、3つの計画を立てました。
- 会計のための計算練習
かつて頭の中のそろばんで行っていた計算を、電卓で練習します。朝市で役割を持ち、貢献できるようになることが目的です。 - リハビリの強化
午後のデイサービスで実施される機能訓練に毎日参加し、外出に必要な体力をつけていきます。 - 心理的なサポート
「迷惑がかかるかも」という不安に寄り添い、外出を心から楽しめるように支援します。
毎日の練習が自信に変わる
S様は、訓練に対して真剣に取り組まれました。
そろばんを得意としていたS様にとって、電卓は未知の道具でした。しかし毎日欠かさず練習に励み、計算ができるようになると、その成果を嬉しそうに事務所まで報告に来てくださいます。デイサービスでの機能訓練にも毎日参加され、着実に体力をつけていかれました。
そして、訓練の成果が目に見える形で現れました。他の入居者様に日々の頑張りの証である「ゴールド」を配る際、S様が電卓でポイントの計算を手伝うように。これはS様に自信を大きくつけさせる重要な出来事となりました。
ついに迎えた朝市の日
前日、スタッフと一緒に「明日は何を着て行こう」と洋服を選ぶS様の表情は、喜びと期待に満ちていました。
当日、市場に到着すると、S様の姿が一変しました。
電卓を片手にご主人の隣に立ち、ご主人が育てた野菜を陳列し、準備や接客を手伝う。まるで30年前にタイムスリップしたかのように、いきいきとした表情で主体的に動き始められたのです。
入居時の様子からは想像もできない変化でした。
久しぶりに会う知人たちが次々とS様のもとを訪れ、抱き合ったり、握手をしたり、中には涙を流して再会を喜ぶ方もいらっしゃいました。会場は温かい感動に包まれました。
朝市は大盛況のうちに終わり、S様も大変満足されたご様子でした。
広がる笑顔の連鎖
この取り組みの成果は一時的なものではありませんでした。自信を取り戻されたS様は、その後も何度も朝市に通われています。
さらに嬉しい変化が。S様に触発され、S様のご主人様もゴールドエイジのデイサービスに通われるようになり、現在ではご夫婦で仲睦まじく過ごされています。
そして、S様の成功は他の入居者様にも影響を与えました。自信を付けられたS様が、他の入居者様に「あんたも一緒に行こまい」と声をかけ始められたのです。声をかけられた方も「一緒に行きたい!連れてって」と応じるようになり、朝市へ行くという共通の目標に向かって、共に機能訓練に励むという相乗効果が生まれました。
「この館に入らなければ叶わなかった夢。昔から朝市で一緒だった人たちに会えて、『よく来たね』と肩を叩いて喜んでもらえて、本当に嬉しかった。皆さんのおかげです」
S様のこの言葉は、私たちスタッフにとって何よりの励みとなりました。
「夢」が持つ力
ホームへの入居は、何かを諦めることではありません。夢を持てばきっと叶えられる。私たちスタッフは、入居者様の願いや希望に寄り添い、その実現を支援することができます。
改めて私たちは素晴らしいお仕事に感謝し、これからもゴールドエイジ一同精進して参ります。